中山栄治「私の一冊」

傑作長編時代小説です

葉室麟 「散り椿」 角川文庫

この作品、折しも岡田准一さん主役で映画化されもうすぐ公開ですね。作者の葉室さんは1951年小倉生まれ。福岡は久留米の明善高校,西南学院大学文学部フランス語専攻卒業後は、地方紙の新聞記者、KBCラジオのニュースデスクを経て、2005年54歳で江戸時代元禄期の絵師尾形光琳,陶工尾形乾山(けんざん)兄弟のことを書いた「乾山晩愁」で作家デビューです。同作品でいきなり歴史文学賞を受賞されました。2007年に発表した「銀漢の賦」で松本清張賞を受賞、2012年「蜩ノ記」で直木賞受賞。さらに2016年には「鬼神のごとく 黒田謀反臣伝」で司馬遼太郎賞を受賞しました。晩年は京都に仕事場を構え福岡との間を行き来されていましたが、その京都で書かれた「古都再見」というエッセイでは、「死ぬのは怖くない」と語り、自らの最後を予期している節がありました。ほどなく昨年2017年12月病死されています。66歳でした。葉室さんはかなり書き溜めておられたのでしょうか。死後の現在も新刊が出ています。ちなみに作家生活12年間で70冊もの作品を遺されています。

さて「散り椿」です。 時は江戸時代、扇野藩を妻「篠」とともに18年前に出奔し、京都の地蔵院という古刹に身を寄せていたもと「勘定方」瓜生新兵衛。二人に子はなく出奔以来、新兵衛は病弱の篠を抱えて日々つましく暮らしていました。病に伏していた篠は、庭に一輪、一輪、そしてまた一輪散る椿、散り椿を眺めながら、もう一度故郷(くに)の散り椿が見たいと願っていました。ある日、死を予期した篠は新兵衛に対し、自分が死んだら故郷に帰って、実家の庭の散り椿を自分の代わりに見て欲しい、そしてさらに新兵衛に成し遂げて欲しいあること告げるのでした。篠は死に、悲しみに暮れる新兵衛は、篠の最後の願いを遂げるべく扇野藩へ帰藩します。もちろん藩に新兵衛の居所はなく、やむを得ず、篠の実家に身を寄せようとします。そこで篠の面影をそのまま有する妹里美と対面します。出奔する前の新兵衛は、扇野藩では一刀流道場の四天王の一人としてその腕は聞こえていました。当時、新兵衛は勘定方として理を通して藩の不祥事を追求し、その主張が通らずに逆に藩を負われることになったのでした。藩では事件の巻き添えとなり謀殺されたものもあり、逆に昇進したものもいました。その昇進した者の中には新兵衛の親友であり新兵衛と同じ四天王の一人と呼ばれていた榊原采女もおり、今や出世頭として藩の重役を務めていたのでした。実は、新兵衛の妻篠はもともと榊原采女に嫁ぐこととなっていたのが破談となり、そのことを知らない新兵衛と一緒になったという経緯があったのでした。

新兵衛は当時の謀殺事件の犯人が誰なのか、ひいては不祥事の真相を突き止めるべく奔走しますが、過去の騒動を起こした張本人と目されていた新兵衛の帰郷により藩内では再び紛争が巻き起こり、ついには元親友であった榊原采女とも対決せざるを得ない状況へと追い込まれていきます。過去の謀殺事件の犯人、不祥事の真相は明らかになるのか、はたまた篠が遺した言葉とは、その真意とは何だったのかと、全ての謎が解き明かされたとき…といった感じでストーリーは展開していきますがいかがでしょうか。

もちろん、ラストは感動と涙なしでは本を閉じることはできないこと必定です。さて、映画は読んでから見るか、見立てから読むか、たぶんどちらでもよいと思います。文庫本で272頁、734円です(了)。

弁護士 中山 栄治

私の一冊について

福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。