中山栄治「私の一冊」

あなただったら、不治の病とどう向き合いますか?

二宮敦人 「最後の医者は雨上がりの空に君を願う」上下巻 Toブックス

今回は久しぶりに泣いていただきます。涙なしでは読めない、かつ感動の余り言葉をも失ってしまうほどの上下巻あわせて2冊です。

作者の二宮さんはご存知ですか。私もじぇんじぇん知りませんでした。そこでまず著者のご紹介からですが、二宮敦人さんは1985年東京都生まれ、といいますから現在34歳ですかね。一橋大学経済学部を卒業後、2009年に 「!」 で小説家デビューです。この 「!」 シリーズ4冊出されていて累計で19万部売り上げているというから驚きですね。私はまだ一冊も読んでいませんが。ジャンルは、ホラー、推理ものとされています。彼の配偶者、嫁さんのことですね、彼女は東京学芸大学の彫刻科に在籍されているとのことです。二宮さんは嫁さんとその芸大仲間から取材を重ねて2016年10月にノンフィクション作品を発表します。題して「最後の秘境 東京芸大/天才たちのカオスな日常」という何とも奇妙な作品、でもベストセラーとなってしまいました。彼は雑誌のインタビューに答えて、彼の小説を書くモチベーションとは「死にたくない。生きていくために誰よりも努力してよい作品を生み出し続けていかなければならない」なんて言っています。凡人の私には分かり難いですが、要するに描くことへの執着心がとてもとても強いということでしょうか。

さて、そんな彼の作品です。冒頭でお話ししましたように今回は感動ものですのでネタバレしないように注意してさわりだけ紹介します。

主人公はといえば、おそらく二人います。同じ医大を優秀な成績で卒業した福原と桐子。二人は卒業後、福原の父が経営する地域の基幹となる大病院に就職します。二人は病院内において対極をなしていました。福原は病院の次期後継者として、飛ぶ鳥を落とす勢いで行動力にあふれ、不治の病に対しても、日進月歩の医療の世界に望みを託し、例えばがん患者に対しては、手術によって根治治療ができない場合でも放射線治療や抗がん剤の投与など患者の延命のためにあらゆる治療を継続することを肯定します。一方、桐子は余命幾ばくも無い患者に対峙するカウンセリングにおいて「どうせ治らないのだから流されるままに生きるのもいい」等と平気でアドバイスし、延命治療を意味がないものとして否定します。彼は、患者に対する冷淡さから、病院内で死神とまで呼ばれていました。

そんな二人は、ある日、病院長に無断で訳アリの末期がん手術を執刀し、桐子は病院を追われ、福原は副院長でありながら閑職に追い込まれます。

桐子は一人診療所を開きますが、二人はそれまで通りの信念で、福原はいかなる不治の病であってもの患者の延命を諦めず、桐子は流されるまま患者に対峙していました。

実は桐子、幼少のころ原因不明の病に長いこと入退院を繰り返し、ただ生きるだけの日々を過ごしており、それゆえに冷淡な死生観を持っていたのでした。そんな彼に大きな影響を与えたのが、桐子と同じ病室に入院していたがん末期患者の女性だったのです。彼女は治癒の見込みがないにかかわらず、桐子に対しいつも笑顔で接し、決して病気からの生還をあきらめようとしませんでした。さて、時を超えて現在、桐子の人生観に大きな影響を与えた件のガン末期患者だった彼女が誰でどんな境遇であったのかが明るみになります。一方、福原の病院で脳障害により倒れたある患者について、桐子は福原の要請により主治医を担当することになります。桐子が担当するその患者とは一体誰なのか? 桐子はその患者を治すことができるのか?患者は脳障害の後遺症により現在の短い記憶を維持することができない半面、時には夢の中を彷徨いながらもながらも過去の記憶を克明に語るのでした。桐子は患者の過去を記録します。その記録から明らかになった彼の過去とはどのようなものであったのか。その記憶の糸が紡がれたとき、明らかになる真相とは…といった感じですがいかがでしょうか。

残された日々を懸命に生きる患者と医師の葛藤を描いた感動の医療ドラマです。

既に本作品は映画化に向けてプロジェクトが始動しているようです。

実は、本作品は「最後の医者は桜を見上げて君を想う」(上下巻)という作品の続編なのです。この前編では桐子と福原がドロップアウトするまでの経過が描かれています。なので、一応順番としては先に前篇をお読みになってから本作品を読まれることをお勧めします。が、まあ、楽しむという観点からは順序はどちらでも問題ありませんし、本作品だけでも十二分に楽しむことができます。

本日ご紹介しましたのは「最後の医者は雨上がりの空に君を願う」Toブックスから2018年4月2日に発刊、文庫本上下巻で502頁、1209円です(了)。

弁護士 中山 栄治

私の一冊について

福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。