フォーサイスの真実とは?
フレデリック・フォーサイス「アウトサイダー 陰謀の中の人生」角川書店
イギリスの作家フレデリック・フォーサイスはご存知ですよね。元ジャーナリストでデビュー作が「ジャッカルの日」というフランスのドゴール大統領暗殺をテーマにした作品だったのですが。
まずフォーサイスの略歴についてご紹介します。 彼は1938年8月、イギリスはイングランドのケントアシュフォードに生まれます。成績優秀で、15歳で大学入学資格に合格したものの、オックスフォードやケンブリッジの奨学生の口を蹴ります。何と彼は、第2次大戦中に活躍した戦闘機スピットファイアを操縦したいとの動機で17歳にしてイギリス空軍に入隊します。めでたく航空機の操縦免許を持つ者に与えられる航空記章を得て58年、19歳で空軍を除隊。ジャーナリズムの世界に飛び込みます。地元の小さな新聞社を経て、幼少からフランス語ドイツ語に堪能という語学力を買われ61年にロイター通信社の特派員として採用されます。ロイターではパリ、冷戦下の東ベルリン、プラハで現地特派員として過ごします。65年にはイギリス国営ともいえるBBC放送局に転職し、67年にナイジェリア連邦に派遣されビアフラ独立戦争を取材します。しかし、彼の真実だけを報道すべきとのスタンスは時のイギリス政府の方針に反するものであり、会社から帰国命令が出されたうえで左遷され、これに反発して退職することになります。
彼は生活に困り果て、お金欲しさにそれまでの経歴を生かして執筆活動に入ります。そして、まずはロイター通信のフランス在住時のドゴール番としての知識経験をもとに描いた、ドゴール大統領暗殺未遂事件を書いた処女作「ジャッカルの日」を世に発表します。作品は当初、日の目を見ることはありませんでしたが、たまたま著名な映画プロデューサーの目に触れ、すぐに映画化され作品よりも映画の方が大ヒットとなりました。次作、ナチスの残党狩りを扱った「オデッサ・ファイル」も大ヒット、続いて「戦争の犬たち」「悪魔の選択」「ネゴシエイター」、最近では「キル・リスト」と彼が作品を発表すれば全てが大ヒットします。ジャンルは国際謀略小説、ありていに言えばスパイ小説です。
彼のエピソードとして興味深いのは、ジャーナリストとして最後を過ごしたビアフラで現地の子供たちに何ら救いの手を差し伸べられなかったことをを自ら失望していたのですが、BBC退職後、彼は作家としての「ジャッカルの日」の印税を拠出してナイジェリアでの内戦に敗れ祖国を失ったビアフラ人を救おうと立ち上がります。すなわち、自ら傭兵部隊を雇い赤道ギニア共和国に対し、クーデターによる政権転覆を企てここにビアフラ人を逃げ込ませようとしたのでした。72年のことです。ところがこの企ては船への武器積み込み予定地であるスペインで、事前に買収していたスペイン国防省の役人の裏切りにより傭兵隊長が身柄を拘束され失敗に終わっています。後にフォーサイスは、朝日新聞の取材に答え、この企てについて自分は傭兵たちの作戦会議を取材しただけであり計画へは全く関与していないと否定しています。ただ、何とこの一連の企てを小説化したのが、このクーデターの前に発表されていた彼の第3作「戦争の犬たち」だったのでした。
また、彼は、ロイター通信社の東ベルリン特派員時代にイギリスの諜報機関MI6の手助けをしたこともあるというのです。
今回ご紹介する作品は、そんな彼の彼自身による自叙伝です。既にその人生の一部をご紹介しました。その全貌を彼の語りから存分に味わってください。
タイトルの「アウトサイダー」というのはエスタブリッシュメント、つまり支配階級嫌いを表しているとのことです。それは彼が結局左遷されることとなったBBCでのことを意味しています。彼がビアフラに派遣されていたとき、ビアフラはナイジェリアから独立しようとしていたのですが、当時イギリスはビアフラの独立運動を支持せずにナイジェリア政権側を肩入れしていました。このため現地の真実を報告せず、虚偽の報告をするイギリスから派遣された日和見的な高等弁務官のために、イギリスはビアフラに対して、食糧禁輸を実施ししました。その結果、莫大な数の子供たちが餓死したのでした。内乱の3年間に戦死者餓死者併せて200万人もの死者が出ました。彼はそんな子供たちの救済に全くの無力で、彼はジャーナリストは自分の目で確かめた事実にこそ従うべきだとして主張したのでした。
最後に彼の作品にとって最も大切なのは、描く事実に対する徹底的な取材だということです。だからこそストーリーにリアルさというか迫真性が出てくるのでしょう。読者の皆様には、まずはこの自伝を読んでいただき、なんだか面白いそうだと思ったら彼の代表作から初めて1冊ずつ手に取っていただければと思います。ちなみに私が初めて手にしたのは20数年前、エディーマーフィー主演で映画にもなった「ネゴシエイター」でした。その後1冊1冊と読むうち、とうとう全作品を読んでしまいました。
本作品は角川書店から2016年12月28日に発刊、単行本400頁、2160円です (了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。