ラグビー部を維持するには莫大な費用がかかります。
池井戸潤 「ノーサイドゲーム」ダイヤモンド社
さて今日ご紹介するのは、元気の出る本です。超売れっ子作家の池井戸潤さんの新作です。この6月に出版されたばかりなのですが、既にTBS系列でテレビドラマ化されてついこないだ最終回を迎えました。
タイトルのノーサイドからもわかるとおり、本作品はラグビーを扱ったものです。ラグビーのワールドカップが日本で今まさに行われています。観ましたかオールブラックス、凄いですね。
ところで、アマチュアスポーツである社会人ラグビーですが、現在、日本ではジャパン・ラグビー・トップリーグに16チームが属しており毎年、優勝をそして日本選手権をかけて競われています。_福岡にも九州電力と宗像サニックスがこのトップリーグに属していますが、この社会人チームですが、運営するための予算は1年間でどれくらいだと思われますか。練習施設の設備、管理費、1チーム50人以上からなる職員及び選手の給料、強化合宿費、試合のための遠征費、試合開催費などなどでおおよそ約14億円が必要とのことです。これら全ての費用は会社の営業利益の中から支出されるわけですから、大企業でかつ大きな利益を上げているところでないとチームを持てない所以です。日本選手権で7連覇を果たした名将松尾雄二率いるあの新日程釜石ですら、会社の都合で廃部となったほどです。
それではいつものとおり、作品紹介に先立ってまずは作者紹介ですが、これは私の一冊29をご参照ください。
さて、ネタバレしない範囲での作品紹介です。 大手自動車メーカー、トキワ自動車、この本社経営戦略室に属する勤続22年のエリート社員君嶋隼人、彼が主人公です。テレビドラマではこの君嶋を大泉洋が演じます。彼は、社内で敏腕と言われる役員が手がけた大型企業買収案件に財務上の異を唱えたことが仇となり、なんと横浜工場の総務部長へと左遷されます。ところが横浜工場の総務部長は、横浜工場にあるグランドでプレーする会社のラグビー部、アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することとなっていたのでした。アストロズはかっては強豪としてならしていましたが、いまは成績不振にあえぎ、巨額の赤字を抱えていました。ラグビーに関して何の知識も経験のない、ずぶの素人の君嶋がチームの再建に挑みます。一方、会社内では権力争いがあり、これに伴い経営の合理化を主張する陣営からはラグビー部をして赤字を垂れ流す存在意義のないお荷物と断定され、その廃部を迫ります。これに対抗するためには、まずは試合を勝ち進み、最低限一部リーグに残るだけでなく優勝を遂げなければなりません。君嶋は果たして、チームを再建することができるのか?チームは廃部するほかないのか?社内の抗争の行く末は?君嶋の地位は如何に?といった感じでストーリー展開していきます。そしてご安心あれ、最後は、池井戸さんお得意の、爽快感あるラストを迎えさせてくれます。
ちなみに、私は原作を読んだ後で、放映中のテレビも録画で観ていました。テレビの構成上、原作は端折られて変更されているところもありますが、両方とも楽しませてくれることに違いはありません。日本ではラグビーゲームの終了のことを「ノーサイド」と言っていますが、その意味するところは試合が終われば自陣と敵陣のサイドはなくなり、勝ったも負けたもない、ということです。現在では、世界的には試合終了のことをノーサイドではなくフルタイムといっています。池井戸さんは本作品のタイトルに、あらゆる戦いに勝ちも負けもないということを込めたのではないかと、私は勝手に想像しました。
最後に、耳寄りな情報です。来年4月に堺雅人主演のあの半沢尚樹シリーズが7年ぶりに、またまたTBS系列で復活します。脚本の原作となるのは既に出版されているシリーズの「ロスジェネの逆襲」と「銀翼のイカロス」だそうですので、この際この2冊を未だ読まれていない方はこちらもいかがでしょうか。
本日ご紹介したのは池井戸潤さんで「ノーサイドゲーム」ダイヤモンド社から2019年6月13日発刊、406頁、1728円でした(了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。