人類はいつ突然変異するのか
高野和明 「ジェノサイド」 角川書店
本作品は,書店員が選ぶ2011年のミステリーのベスト1となりました。作者の高野さんは,もともと映画監督志望で,あの岡本喜八さんの門下生だったんです。1964年東京都出身でロサンジェルス・シティ・カレッジの映画科を中退したのち,映画家をめざして脚本家に,そして2001年,死刑囚のえん罪を扱った「13階段」で江戸川乱歩賞を受賞して作家として本格デビューしました。そういう経歴からか,映像をイメージした表現が巧く,実際執筆にあたって映像資料としてDVDを見たりされるそうです。
さて,本作品のストーリーです。アメリカNSAは大統領に対する定例報告においてアフリカに突然変異による新種の生物が出現し,この生物が繁殖した場合,全人類が絶滅の危機にさらされる可能性があるとの報告をします。これに対して,大統領は,この綿密な調査を命じます。こうしてアフリカでひとつのストーリーが動き始めます。シーンは移って日本,大学院で新薬の開発を研究している古賀研人。その研人の父が突然死します。亡くなった父は,ウィルス研究に従事する著名な大学教授でした。ところが父の葬儀を終えて,日常生活に戻った研人のパソコンに,死んだはずの父からメールが届きます。そこには,「アイスキャンディで汚した本を開け,このメールのことは母さんを含め誰にもいわないように。」と暗号めいた指示が記載されていたのでした。研人は子どもの頃の記憶をたよりにその本を開きます。そして,その本からメモとノートパソコンをみつけ,さらに父の秘密のアパートに導かれます。アパートは,父の研究分野であるウィルスの有機合成を行う実験室だったのです。アパートには父から研人へ宛てた手紙が残されており,研人は秘密裏に父の研究を引き継ぐことを余儀なくされます。父は,一体何を研究していたのか。研人はこの日を境に身の危険を感じるようになります。一方,かって,アメリカ陸軍特殊部隊に属し,今はイラク,バクダットの危険地帯で傭兵をしているイェーガーのもとに,トップシークレットの任務が高額報酬にてオファーされます。ミッションは,イェーガーをリーダーとしてたった4人で,エボラ熱がまん延するアフリカはコンゴに潜入して,非武装のある一団のターゲットを抹殺すること等でした。折しも彼には難病で死に瀕し最高の医療を必要とする息子がおり,その治療費捻出のために,この特殊任務を引き受けます。しかし,ミッションには国家レベルでの陰謀が隠されていたのでした。アメリカ,日本,コンゴで別々に動いていたストーリーがやがてひとつの点となって交わります。研人とイェーガーが巻き込まれた陰謀の裏では,人類規模でその命運が左右されようとしていたのでした。
と,ストーリーにかなり深入りしてしまいましたが,ここまでにしておきます。いかがでしょうか。まさに,世界を股に掛けたグローバルなノンストップ冒険ミステリーとでもいいいましょうか。 人類のミステリーに絡むサイドエピソードも私の知識欲を十分に満たしてくれました。タイトルのジェノサイドとは,虐殺とか特定の集団を抹殺することを意味しますが,本作ではどのようなことを示唆するのか,それは読んでのお楽しみです。
実は,本作品は作者が二十歳頃に読んだ立花隆さんの「文明の逆襲」に書かれていた生物進化の可能性からヒントを得たんだそうです。構想から数十年の時を経て,具体的に準備に入って完成までには2年半。参考資料として書籍200冊,映像情報としてDVDが10数枚等,緻密に取材を積み上げた上での作品です。是非,映画化して欲しいもんですが,映画化には,壮大な殺戮シーンなど映像化するのが困難なところもありますが,つい期待してしまいます。なお,本作品で山田風太郎賞を受賞しています(了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。