世界史を勉強してみませんか?
川北 稔 「砂糖の世界史」 岩波ジュニア新書
本日はタイトルその名の通り,砂糖の歴史についてのお勉強です。
今でこそダイエットで砂糖控えめというのがよく聞かれますが,私たちが記憶のある限り幼少の頃,はじめて砂糖を口にして,この甘さに惹かれなかった人はいなかったと思います。歴史上のその昔,砂糖には驚くほど多くの用途がありました。結核治療をはじめとした薬,甘みを引き出す調味料,カロリー源としての食料などはその一例に過ぎません。では真っ白純白に精製された砂糖はどうやって製造するのでしょうか。そうです,さとうきびを栽培して,これを絞り,液化したジュースを煮詰め蒸発させて固形化させる工程を繰り返すことにより完成します。とはいえ,プランテーション化が始まった16世紀にあっても,砂糖の供給量はとても少なくて極めて珍しく高価なものだったのです。さとうきびの原産地はインドだといわれていますが,いずれにしろ,熱帯や亜熱帯地方での栽培に適していました。
砂糖は,16世紀から19世紀までの近代初期の世界で広く取引され,お茶,たばこ,香料,綿花などとともに世界商品といわれています。これら世界商品を独占できれば莫大な利益が上げられることはいうまでもありません。それで,海賊が横行していた大航海時代のヨーロッパの列強各国は砂糖の生産をいかにして握るか,その流通ルートをいかにして押さえるかということを競うようになります。さて,砂糖を作る方法は先ほど触れましたが,現実には誰がどこで作るのかが問題です。答えは,まず,場所は生産に適した熱帯地域であるブラジルやカリブ海の島々の植民地,現地にてこれを生産するのは奴隷,すなわちアフリカから略奪連行された黒人ということになります。これら連行されたアフリカンは数千万人にも及んでいました。また,ご存じのとおり,綿花栽培は新大陸アメリカでも黒人奴隷によって担われていました。これらの黒人たちは,アフリカから1ヶ月以上にも及ぶ航海の間,帆船の船底にすし詰めにされて運ばれたのですが,十分な食料はもちろん水さえ与えられずに,多くは航海の途中で脱水症状や伝染病などにより亡くなっており,その数は生きて運ばれた人数の4倍にも達するとの報告もあるくらいです。現在,アフリカがルーツであるはずの黒人が全世界に分布しているという理由がここにあったわけです。
高校生の時に,世界史で習った三角貿易というのを覚えていますか?> はい,ヨーロッパとアフリカとカリブ海を結ぶ三角です。ヨーロッパ人は砂糖などを生産するプランテーションでの労働力を確保するためにアフリカから奴隷を物々交換により買います。アフリカで奴隷を供給するのは,初期は,ヨーロッパ人自らが確保していましたが,その後は,何と既に樹立されていた黒人王国が供給していたのです。奴隷の代価としては,鉄砲やガラス玉や綿織物が支払われました。奴隷を得たヨーロッパ人は新大陸をめざして航海し,奴隷たちを南北アメリカやカリブ海域で売り,これと引き換えに砂糖を得るのです。こうして得られた砂糖はヨーロッパ各地に持ち込まれ高値で売られるのです。この三角貿易によるヨーロッパ人船主の利益は元手の2倍にもなったといわれています。いかがでしょうか。ざっとあらすじについて説明しましたが,砂糖というモノを通じて世界史がわかります。
歴史を学ぶということは,年代や事件や人名をすべて暗記するということではありません。今の私たちの世界がどのようにして今日のような姿,形になったのかを,身近なところから考えてみましょう・・・と巻末にありました。世界史選択の受験生必読の書です。
本書は96年初版。作者は1940年生まれ。京都大学文学部卒業後,歴史学を研究,大阪大学文学部の教授を定年退官,現在は仏教大学歴史学部教授。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。