ハードボイルドミステリー,極上の娯楽作品です
スティーヴン・ハンター「蘇るスナイパー」(上)(下)扶桑社ミステリー
誰しも子どもの頃は射撃が好きで,祭りといえば出店に繰り出し,子どもにはずっしり重いコルク銃で射的をして景品をめざしましたよね。モデルガン,空気銃,時は移り,現在はBB弾なる強力な空気銃が出回るようになりましたが,日本では銃器規制が厳しいだけに,身の回りといえば,お巡りさんが本物の拳銃を所持していますが,銃は常に憧れです。女の子は違うのかもですね。
アメリカでは,200年も前(西部劇の時代ですね)から合衆国憲法修正第2条において「・・・市民が武器を保有し,または携帯する権利はこれを侵してはならない」と規定して,市民は拳銃からライフルまで幅広く銃器を所持する権利が保障されています。これに基づきアメリカでは全米ライフル協会という圧力団体のもと,銃器所持の禁止運動は拡がりを見せません。一方で銃器使用による重大犯罪が多発しているアメリカでは自ずと銃に対する意識も日本とは全く異なっているのです。日本では制定されて未だ60年しか経っていない平和憲法の下,銃器の所持は厳しく禁止され,狩猟等一定の場合に所持・使用の免許が付与されているだけです。
さてタイトルにあるスナイパーとは狙撃手のこと。人質を獲った立てこもり犯に対して,SWATのメンバーが高いビルから犯人をピンポイントで狙撃するというシーンはお馴染みです。しかし,スナイパーが歴史上絶大な威力を発揮したのは,過去において経験した数多くの近代戦争においてでした。近くは多国籍軍のイラク侵攻において,古くはヴェトナム戦争において,スナイパーは何日も砂漠やジャングルに潜伏しては,高性能ライフルのトリガーひとつで数多くの敵兵をスナイプしました。アメリカでは,スナイプによって敵軍兵士により友軍兵士が殺されることに歯止めを架け未然に防いだという意味において,スナイパーは戦闘時の殺し屋と呼ばれるに拘わらず,絶大に英雄視されているのです。ことにそのスナイプした数においてナンバーワンは誰かということが,現在も公式記録として残されているのです。
本作品はヴェトナム戦争における伝説のスナイパー,ボブ・リー・スワガーのシリーズ第6作目です。第1作目からは20年も時を経いてるため,スワガーも歳を重ね,既に60を超えた老体になりましたが,強靱な肉体を背景に伝説の神業は蘇ります。
物語は,超一流のスナイパーによるものと思われる4件の狙撃事件の発生からはじまる。被害者にはいずれもヴェトナム戦争に対する反戦運動歴があるという共通点があった。捜査の結果,ヴェトナム戦争においてナンバーワンスナイパーとして活躍した,今はアルコール障害性のうつ病を抱える老人カール・ヒッチコックが容疑者として浮上する。彼の身辺からは犯行を裏付ける決定的な痕跡が出てくるが,FBI捜査主任ニックは安易な捜査終結を宣言しない。直感的に事件に何らかの裏があることを嗅ぎつけた彼は,旧知のもと海兵隊名スナイパー,スワガーに調査依頼をする。調査の結果,スナイプに使用された銃には,いずれも現代科学の粋を駆使したハイテク・スコープが装着されていたことが判明する。500ヤード離れていても正確にスナイプできるスコープの構造はコンピューター制御によるものだった。
果たしてヒッチコックが真犯人なのか?4人の暗殺に隠された真相とは?映画にもなったスワガーシリーズの初作「極大射程」をも凌ぐ娯楽作であること,間違いなく請け合います。たぶん,本作品も映画化されるとは思いますが・・・。
作者は,46年ミズーリ州カンザスシティ生まれ,68年ノースウェスタン大学卒業。71年ボルティモアサン新聞社入社。同紙在籍中の80年,「ザ・マスター・スナイパー」(邦題「魔弾」)で小説家デビュー。96年ワシントンポスト紙に移籍,映画批評担当部門のチーフを務め,現在も小説家として活躍(了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。