中山栄治「私の一冊」

尖閣問題について考えてみましょう。

青木俊「尖閣ゲーム」幻冬舎

尖閣諸島は位置的に琉球王国から中国大陸へ至る航路上にあり、その存在は古くから知られていまして、航路上の標識としての利用がなされていたそうです。でも島そのものの利用価値はなく、現在は無人島となっています。その領有をめぐっては、島々の近隣に位置する日本、中国、そして台湾との三つ巴で紛争がありますが、そもそもは、国連が1969年頃に行った海洋調査により、周辺海域に石油国イラクの石油埋蔵量に匹敵する1095億バレルの埋蔵量がある可能性が報告されたのが、紛争の発端でした。つまり海洋資源がなければどうでもよかったということです。

この海洋資源をだれが手にするかという問題なんですが、各国の主張の主な論拠を簡単に説明しますと、日本側の主張では、尖閣はもともと琉球王国の一部たる琉球諸島の一部であり、明治維新後に琉球は沖縄県として帰属するとともに日本の領土になったものと主張しています。実際、1900年ころには島々中の一番大きな魚釣島に日本人が入植し、アホウドリの羽根の採取や海鳥のはく製の製作、鰹節の製造などがされ、最大で248人の日本人が居住していたとのことです。しかし、2次大戦がはじまり1940年以降は無人となっています。

これに対して、中国は明の時代に琉球へ派遣していた冊封使の報告書である古文書に「魚釣島を目印にして琉球へ渡航したなど」の記載等があることを主たる根拠としています。

台湾は尖閣諸島はもともと中国に属していたものであるが、台湾島に付随する諸島の一つであったことを前提として1895年に日清戦争の講和条約である下関条約によって台湾とともに日本に割譲されて以来、日本の領土化とされていたが二次大戦後に台湾返還とともに台湾に復帰したというものです。

さて本書のストーリーです。主人公の山本秋奈は沖縄新聞社の記者ですが、5年前に警視庁の警察官をしていた姉を事故で亡くします。警察の説明によると東シナ海上のある島の上陸訓練中の殉職ということだったのです。姉の死に納得できない秋奈はその真相を探り続けていたのですが、とうとう中国の明の古文書である「冊封使録」の「羅漢」という書の存在にたどり着きます。この古文書に姉の死の真相が隠されているというのです。さらに探り続けていたところ、古文書には尖閣諸島の領有権問題に関する記載があるということが判明します。

おりしも沖縄ではアメリカ兵による女子高生強姦殺人事件が発覚します。当然、沖縄県民の世論は激しく米軍基地の駐留を批判し、その波は日本政府に流れます。そして、米軍のオスプレイが白昼に市街地に墜落するという事故が発生します。ますます反米感情が高まる中、その報復なのか、沖縄駐留米軍最高司令官が何者かによって狙撃のうえ暗殺されます。さらに沖縄県警本部長まで射殺されます。これら事件の背後には中国の影が見え隠れします。

これらの対応に追われる日本政府に反発する沖縄県知事は沖縄県民の世論を背景として沖縄県の日本からの独立を唱え、住民投票を実施します。尖閣諸島の領有権の帰属と沖縄県の独立との関係はどう結びつくのか?

実際、ストリー中に出てくる事件はいつ起こってもおかしくないような事件ばかりですが、驚愕のラストが待ち受けています・・・。

といった感じですがいかがでしょうか。

ところで、琉球王国はもともとどちらかといえば日本よりも中国の属国だったのではないかという見方もあるわけですが、沖縄県の独立なんて現実的にはどうなんでしょうか。

作者の青木さんは本作品が処女作であり、その略歴については多くは知られていません。本書の巻末によれば、1958年横浜市出身。上智大学卒業後テレビ東京に入社、報道局、香港支局長、北京支局長を経て2013年に退社。香港支局北京支局を転々としているだけに尖閣問題については事情通です。

現実味があるかはどうかはともかくとして、かなり楽しめる一冊でした。

最後に、尖閣諸島に石油は本当にあるんでしょうか。ちなみに、1971年ころにアメリカの石油メジャー会社が尖閣の石油資源の発掘に乗り出したことがありましたが、アメリカ政府の指導によりすぐに撤退しわからずじまいです。

あの石原慎太郎さんによれば、時の佐藤栄作総理に石油メジャーが試掘をもちかけたところ、佐藤さんはこれを断ったので、彼らは同じ話を中国に持ち込んであの島は本来中国の領土だぞとそそのかしたのだそうです、そうそれが領有権問題に火をつけたというのです(了)。

弁護士 中山 栄治

私の一冊について

福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。