中山栄治「私の一冊」

ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・

さだまさし 「風に立つライオン」 幻冬舎文庫

「風に立つライオン」は、ついこないだまで主演大沢たかおさん、相手役が石原さとみさんと真木よう子さんで映画公開されていましたが、観られましたか? 私は、DVDを待っています。

さださんは言わずと知れたヴァイオリニスト崩れの超大物です。グレープという2人組で、デビュー曲は全く売れず、確か2曲目の「精霊流し」でブレイクしました。以降、シンガーソングライターとして長年にわたり数多くのヒット曲を飛ばしてきました。もちろん現役です。そのうえ、歌手では飽き足らずにいろんな才能に開花されて、小説も数多く書かれています。

「風に立つライオン」は、まず歌として出来上がりました。アフリカでの僻地医療、巡回医療に青春を懸ける青年医師が、母国日本に残してきたかつての恋人にあてた手紙、そんな設定で作られた歌です。

この歌のモデルは実在していて、歌ができるまでに構想15年、さださん曰く、何度も挫折しながら、いざ取り掛かると30分で一気に仕上げたそうです。

曲は約8分間もある長い長いものです。この歌は主として医師、医療従事者、青年海外協力隊の隊員等に愛され、大きな感動を呼び、独り歩きを始め、その影響を受けた多くの若い医師が未開発地域の医療に従事することとなったといいます。

彼が小説を書けばヒットして話題となるので、このほかにも彼の原作で映画化されたものが多くあります。

代表的なのは、石田ゆり子さんの「解夏」と松嶋菜々子さんの「眉山」が有名ですが、いずれも大沢たかおさんが主役と主役の恋人役を演じています。

先ほど言ったように今回の「風に立つライオン」は、まず楽曲として1987年に書き上げられました。もちろん、この歌が小説になるなんて全く想定されていませんでした。

さださんの映画に出演した大沢たかおさんは、この曲のCDを音がかすれるほど擦り切れるまで聞いて、歌詞の背景にはどんな物語があるのか、どんな人物がいるのか、想像をめぐらせたそうです。

思い余り、さださんに直談判して「風に立つライオンを小説で読みたい、映像化して自分が出演したい」とこの歌を小説にして欲しいと懇願したそうです。大沢さんの熱意に打たれ、この頼みを承諾したさださんでしたが、これがなかなかうまくいかず「この小説、もう書けません」そう言って大沢さんに頭を下げようと思ったことが何度もあり、書き上げるのに5年もかかり、世に出たのは歌になってから何と26年後ということになりました。

さて内容です。

主人公は島田航一郎。彼は小学生のころからシュバイツァーに憧れて、医師になることを目指していました。そんな彼が子どものころからの夢を実現して外科医となり、ケニアのナクールにある長崎大学の熱帯医療研究所へと旅立ちます。小説は、彼の幼少のころからアフリカに旅立つまでのエピソードとアフリカでの出来事を順を追って、登場人物による回顧録等によって構成されています。いろんな出来事がありますが、何といっても特筆すべきは、旅立ちにあたり恋人を日本に残してしまったことです。というか、彼女が訳ありでついて行かなかったのです。そして彼は二度と日本に帰ってくることはありませんでした。

ここから先は手抜きになりますが「風に立つライオン」の歌詞を以下に記載しますので、そこからどんな物語なのか大沢たかおさんのように想像力を働かせてみてください。

繰り返しますが、アフリカでの僻地医療、巡回医療に青春を懸ける青年医師が、母国日本に残してきたかつての恋人にあてた手紙、そんな設定で作られた歌です。

「風に立つライオン」

突然の手紙には驚いたけどうれしかった何より君が僕を怨んでいなかったということがこれからここで過ごす僕の毎日の大切なよりどころになります  ありがとう ありがとうナイロビで迎える3度目の4月が来ていまさら千鳥が渕で昔君と見た夜桜が恋しくて故郷ではなく東京の桜が恋しいということが自分でもおかしいくらいです おかしいくらいです三年の間あちらこちらを回りその感動を君と分けたいと思ったことがたくさんありましたビクトリア湖の朝焼け100万羽のフラミンゴが一斉に飛び立つとき暗くなる空やキリマンジャロの白い雪草原の象のシルエット何より僕の患者たちの瞳の美しさこの偉大な自然の中で病と向かい合えば神様についてヒトについて考えるものですねやはり僕たちの国は残念だけれど何か大切なところで道を間違えたようですね去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしましたこんなところにもサンタクロースはやって来ます去年は僕でした闇の中ではじける彼らの祈りと激しいリズム南十字星満天の星そして天の川診療所に集まる人々は病気だけれど少なくとも心は僕よりも健康なのですよ僕はやはり来てよかったと思っていますつらくないと言えばうそになるけれど幸せですあなたや日本を捨てたわけではなく僕は現在を生きることに思い上がりたくないのです空を切り裂いて落下する滝のように僕はよどみない生命を生きたいキリマンジャロの白い雪それを支える紺碧の空僕は風に向かってライオンでありたいくれぐれも皆さんによろしく伝えてください最後になりましたがあなたの幸福を心から遠くからいつも祈っていますおめでとう さようなら

いかがでしたか、イメージ湧きましたか。小説は文庫本で366頁です。ライオンとは医師のことを指しています。どうかラストは、ハンカチを準備して一人でお読みくださいね(了)。

弁護士 中山 栄治

私の一冊について

福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。