植物状態から生還したらどうなる?
「奇跡の人」 真保裕一 新潮社文庫
事故か何かで記憶喪失になった経験のある人のことを聞いたことありませんか?私も三日だけ経験したことがありますが,記憶が空白になってしまって,多くの場合その空白の記憶は蘇らないようです。泥酔して,都合の悪いことは覚えてないってことは皆さん頻繁に経験したことおありだとは思います。
ロバートデニーロの主演映画「レナードの朝」を観られましたか。
病気でずっと眠り続けていた主人公が,ある日突然目を覚ましてみたらというのでしたが,いわゆる事実上の植物状態から回復した人の記憶というのはどうなるんでしょうか。
本作品はそんな疑問に一例として答えます。
物語は冒頭,死を目前にした母が息子克己に宛てて残した16冊の手記からはじまります。母の息子克己の闘病記録でした。主人公相馬克己,彼は22歳の時,交通事故により激しく頭部を打ち意識不明の重体になります。そして,一度は脳死の判定をされかけながらも奇跡的に命を取り留め,いわゆる植物状態になります。その後再び奇跡は起こり,克己は意識を回復し,ついには1人で歩けるようにまでになります。このことから克己は周囲から「奇跡の人」といわれます。このとき事故から既に8年が経とうとしていました。宮崎の病院にて長期の入院生活をしている克己は既に30歳。何よりも彼の快復を願い献身的に看病してきた母は,既にガンで他界していたのでした。肉体的に回復した克己は天涯孤独の身となってしまったのでした。ところで,彼には事故前の記憶が全くないのです。意識が回復して以来,知的に幼児返りしていた彼は,小学校の勉強からはじめて今は中学1年生の教科書で勉強しています。精神的にも日々成長する克己,そんな彼に退院許可が出ます。退院した彼は宮崎市内の母が残した自宅に帰ります。自宅は新興住宅地にありました。もちろん,そこが彼にとっての生まれ育った場所ではないことはいうまでもありません。母はいつからそこで暮らしていたのかもわかりません。ここから彼の昔探しの旅がはじまります。まず,彼は自分の住民票から宮崎に転居してくる前の住所地が福岡であることを知ります。休みを利用して福岡を訪ねますが,そこも彼とは無関係の場所でした。
事故を起こす前,彼はどこでどんな生活をしていたのか?当時を知るものはいるのか?彼が起こした事故とはどのようなものであったのか?
次第に事実は明らかになり,核心へと近づいていきます。彼は一体何者だったのか?すべての真実が明らかになったとき彼は一体どうなってしまうのか?
感動のラストです・・・という感じですがいかがでしょうか。
著者真保さんの数ある作品の中で本作品は絶品であると思い,ちょっと古い作品ですが,ご紹介することとしました。著者の略歴につきましては,私の一冊23をご参照ください(了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。