豚肉スキデスカ?
「飼い喰い 三匹の豚とわたし」内澤旬子 岩波書店
今日はタイトルのとおり豚さんのお話しです。
ところで,本当のベジタリアンって,牛,豚,鶏を問わずお肉は食べないんですよね。本当に野菜ばかりで,食生活満足できるのでしょうか?ただ,有り難いお肉をいただく影には家畜たちの辛い現実があることを皆さんに知っていただきたいと思い本書を紹介することにしました。
豚,牛,鶏は家畜として育てられていまるのはよくご存じだと思います。でも映画にもありましたが,豚はペットとして育ててもそれはそれで賢くて人に懐いたりしてとてもかわいいんだそうです。でも動物園に住んでいる動物やペットと違って,家畜である豚は天寿を全うすることはありません。食肉となる運命にあるからなんですが,皆さんは,豚が生まれて出荷されるまでにどのくらいの期間をおいているご存じですか?豚は生後約半年,ちなみに牛は約2年半で畜場に出荷され屠られ食肉となります。畜産農家が育てている豚の数は大規模なところで1万頭からの豚さんを飼育しているのです。
本書は,作者が準備段階から約1年間かけて,生後間もない3匹の子豚を飼い育て,食肉に適すくらいに大きく太らせて畜場に出荷し,これを解体して食べるまでの実体験を綴ったドキュメンタリーです。ルポルタージュともいいますが。
まずは内澤さんの顔写真が本書に付いてますのでどんな人か見てください。はい,えっ,うそっ,ほんとの世界です。このかた,3匹のかわいい子豚にそれぞれ伸ちゃん,夢ちゃん,秀ちゃんと名前まで付けてお育てになったんです。そして,克明な飼育日記をつけて,自らブログとして発信し,多種多様な得難い苦労をされて,この子たちを一生懸命太らせました。そして,子豚たちの最後のその日には「内澤旬子と3頭の豚」と銘打って3頭を食べる会を催したのでした。食べる会の会場のプロジェクターには3頭が生前に元気よく騒ぐ姿を大きく写しながら。献立は韓国料理,タイ料理,フランス料理とその道のプロに調理していただきました。3頭といえば盛りだくさんで,はい,当然完食です。
豚さんの出荷時の体重は平均で110㎏を超えているそうです。ちなみにここまで育てるのに,えさはその3倍の330㎏は必要となるそうです。ところで110㎏の豚一頭からどれくらいの肉が取れるのでしょうか?一頭の豚は頭と足を落として皮を剥き,内臓を取られますが,この段階で約75㎏になります。ここから骨を取り除き余分な脂をそぐと54㎏,さらに筋や脂肪くず肉を取り除けば精肉となって約51㎏,さらにさらにここからスーパーに並ぶのは肩ロース4㎏,ロース9㎏,バラ9㎏,みんなの大好きなヒレ肉はたった1㎏の計23㎏だけなんです。残りの28㎏は挽肉やソーセージとなるのです(もちろん豚足,内臓はホルモンとして食べますよね)。こうして畜場で解体された段階で入札に賭けられるのですが,いくらで取引されると思われますか????はい。相場の変動はありますが一頭あたりたったの約2万円です。や,やすい。当然,作者の豚さん3頭で計6万ということになりますが,これまでに作者がかけたコストは10倍でも足りません,はい。経済的には全くペイしていません,ただこの本が売れれば別ですが。という感じでしたがいかがでしょうか。
最後に作者の内澤さんは神奈川県出身のイラストルポライターです。日本はもちろん,世界各地を旅してその絵の巧さを活かしてイラスト入りのルポを書きます。45歳。このお歳で3回もの乳ガン手術を克服しておられ,その闘病記も「身体のいいなり」というタイトルで本にしています。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。