中山栄治「私の一冊」

国会議員のお仕事

「タナボタ」 高嶋哲夫 幻冬舎

ちまたでは,民主党野田首相がバカ正直に(?)というか自民党との公約どおりに衆議院を解散してしまいました。ちょっとかっこよかったけど。それで年内に衆議院総選挙が行われることになりましたが,関係ないけど石原さんの後釜の都知事選も同日投票だそうです。

戦後間もない吉田茂首相の時に「バカヤロー解散」なんてのがありましたが,世に解散総選挙のことを「政変」と呼ぶならば,今回の政変・解散は「バカ正直解散」で決まりでしょうか。

こんなご時世ですので,今回は少しだけ政治の世界がわかる本を紹介したいと思います。もちろん読み易くてオモシロイ本です。これさえ読めば,爆笑しながら政治の基本的な仕組みが分かるというオススメの一冊です

さて国の財政はといいますと,1年あたりの国家の支出実績は90数兆円となっていますが,日本という国は累積でなんと1000兆円もの赤字を抱え込んでいることをご存じでしょうか。ありていに言うと借金が1000兆円以上もあるということなんです。これって1億人の国民がひとり100万円手出ししてやっと返済できる額なんですよね。まさに天文学的借金です。実は日本も,ギリシャのようにいつ財政破綻してもおかしくないレベルにまでなっているんです。

そこでこの巨額な赤字を解消するためにはどうすれば良いでしょうか。

誰でもわかる単純な答えとしては,国の黒字収入を増やして弁済に充てること,そのためには国の収入である税収入を増やすしかないので,国民の負担において税金を上げて国の収入を爆発的に増やすか,国の支出を大幅に減額させるしかありませんよね。

そう,消費税増額は,まさに収入たる税金を上げようとことですが,国民に直接に平等に今以上の負担を強いることになりますから,これを推進する議員さんは一部国民からは嫌われのは間違いなく,辛い立場に立たされることとなります。

前提として無駄な支出をたくさん減らせないかという観点からは,公務員の給与や退職金を削減することとか,これまでにもいろいろな行政改革が検討されてきております。折しも投票する1票の価値の格差を問題とする議員定数不均衡の問題が取り上げられていますが,ちょって待って,それよりもそもそも日本という国は国会議員の数が多すぎると思いませんか。

国会議員にかかる経費は,給料だけでもひとりあたり年間約2200万円にもなります。文書・通信・交通・滞在費から,立法事務費,政党助成金,公設秘書にその他諸々の費用で議員一人当たりにかかる直接経費は年間,軽く1億円は超えてしまいます。人件費はどこの世界でも直接のコストダウンに繋がりますが,国会議員が一人減れば1億円の節約になるわけです。

日本の国会議員は現在何人いるかご存じですか。衆議院議員が480人で参議院議員が242人います。あわせて722名ということになりますが,これって多いか少ないか,どう思われますか。

ちなみに,かの同盟国アメリカ合衆国は,人口で日本より約3倍多く,国土に至っては24倍広いという超大国規模にも拘わらず,国会議員の数は上院議員で100名,下院議員で435名あわせて535名です。なんと日本より約200名も少ないんですね。これってどういうこと?おかしいと思いませんか?

もちろん国会議員は選挙によって,直接われわれ国民が選んでいるわけですが,ステータス高い我らが国会議員さんは,本当にその地位・身分にふさわしい仕事をしていただいているのでしょうか・・・多いに疑問を持ってください。

さて本書のストーリーですが,民主党が政権を獲った前回の選挙ではありませんが,主人公は27歳にして衆議院比例代表区選挙の名簿98番目に登載されたプータロー大場大志くん。彼は時の政権政党に対する反対票の追い風に乗って,まさにタナボタ的に信じられない初当選を果たしてしまいます。晴れてプータローから国会議員になった大志くんの生活は怒濤のごとく変貌します。彼は,マジメにも議員としてふさわしい仕事をすべく,彼なりに政治の勉強をはじめます。また,議員として地方回りをするなかで,自分にも政治家の端くれとして出来ることがあるのではないかと思い始めます。そして世の中の仕組みを少しでも変えるために一議員として議案を提出して国会に諮る議員立法に挑みます。こうして私たち読者は,素人1年生議員の主人公大志くんの活動を通して,国会議員の恵まれた待遇の詳細,それに報いるために本来なすべき国会議員のお仕事の実態とはどういうものなのかについて知ることになります。また,物語には現在の政治情勢を揶揄するかのように,現実の政治の世界の,あっ,この人だとすぐわかってしまう人物が仮名で登場してきます。まさに我が国で行われている派閥政治とはどんなものなのか,政治家に必要な能力とはなんなのか,その他もろもろ,実に呆れる内容がつまびらかにされていきます。笑いなしでは読破できない一冊です。わずか228頁です。是非,年末の衆議院議員選挙前に一読してはいかがでしょうか。そして,皆さん,今度の選挙には必ずや投票に行きましょう(了)。

弁護士 中山 栄治

私の一冊について

福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。