倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲」 池井戸潤 ダイヤモンド社
本作品はテレビドラマ化で高視聴率をたたき出した「半沢直樹」の原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」に続く企業小説、バブルシリーズの第3弾です。主人公の半沢直樹がどれにも登場するわけです。先に前2作を読んでから読めば楽しみ倍増間違いなしです。作者の池井戸さんは「下町ロケット」(私の一冊29をご参照ください)で直木賞を受賞しています。
ところで,ロスジェネって何のことか知っておられましたか?
バブル景気といわれた時代がありましたが、世の中、浮かれていましたがあれはあれでいい時代だったんでしょうかねえ。バブル期は超好景気で就職戦線は華やかなものでした。それがバブル崩壊後は不景気という名のトンネルにすっぽりと入り,その期間は1994年から2004年までの10年間にも及びました。当然,この間は就職氷河期でもありました。この就職氷河期に社会人となった若者たち,その彼らのことを後に某新聞紙は「ロストジェネレーション」と書きたてました。略してロスジェネ世代と呼ぶそうです。
さて、作品です。時はバブル崩壊後の2004年、大手東京中央銀行の営業部次長半沢は、何事にも筋を通す性格が災いして子会社の東京セントラル証券へ左遷させられてしまいます。ポストは営業企画部長です。折しも長引く証券不況の中、出向先の東京セントラルの業績も低迷していました。そんなある日,ビックビジネスが舞い込みます。大手IT会社「電脳雑伎集団」がライバル企業である「東京スパイラル」を敵対的買収したいというのです。買収額は1500億円にもなろうかという巨額な案件です。アドバイザーとしてこれを成功させれば巨額の手数料収入が入ることに加え、その実績により業界での地位を確固たるものにすることができます。早速、社内においてプロジェクトチームが編成され、集中的な検討が始まり2週間が経過します。ところが、電脳社との買収スキムを巡る打ち合わせ当日、電脳社の社長から「その件はもう結構です。こんなスピードではとてもパートナーとして信頼できません」。とアドバイザリー契約を解除されてしまうのです。唖然とする半沢。しかし、裏では何と東京セントラル証券の親会社である東京中央銀行の証券部により買収資金の融資との抱き合わせと圧倒的な人材、情報量を武器として、この買収案件を横取りされてしまったということが判明します。真実は東京セントラル証券の内部情報が、何者かにより親会社の東京中央銀行にリークされていたというのが原因していたのでした。しかし、半沢は「やられたら倍返しだ」と親会社と敵対することを決意します。つまり、買収する側から買収を仕掛けられている東京スパイラルに鞍替えして、電脳社からの敵対的買収を防御防衛するアドバイザーとしてついたのでした。さて法律の枠組みの中で許される範囲で奇抜かつ悪辣な手法で買収を仕掛ける電脳雑伎集団。半沢は電脳社のアドバイザーである東京中央銀行に対してどう挑むのか。迫真生がありドキドキしながらついつい物語に引き込まれてしまいます。それもそのはずです。下町ロケットの書評の際にも、ご紹介しましたが、池井戸さんはもと都市銀行に勤め、退職後は経営アドバイザーとして活躍されていました。ですからその知識は確かであり豊富です。M&Aの敵味方に分かれての攻撃・防御の数々は、プロの弁護士として法的観点からみても、確かなものであり「その通り」とうならせるものがあります。例によってラストの痛快さには、思わず手をたたきそうにすかっとします(了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。