南米ペルーにはまだ先住民がいます
国分 拓 「ノモレ」 新潮社
あのマチュピチュ遺跡のある南米ペルーのアマゾン川流域には、今でも、文明社会とは未接触の先住民がいるんだそうです。彼らは、狩猟と木の実などの採取だけで太古から生きてきた、まさにそのまんま裸で暮らす裸族で、今も小人数のグループを形成して暮らしているといいます。21世紀の地球にあって、これは事実です。
本日ご紹介するのは、そのアマゾン先住民のノンフィクション作品です。国分拓(こくぶん ひろむ)著「ノモレ」新潮社からの発刊です。
いつものように著者の紹介ですが、国分さんは、1965年、宮城県生まれ。88年早稲田大学法学部を卒業後、NHKに入社、現在も現職のディレクターをされています。彼は、奥アマゾン密林の最後の石器人と呼ばれるヤマノミ族を、150日間も同居取材して、ドキュメンタリー番組「NHKスペシャル「ヤマノミ-奥アマゾン 原始の森に生きる」を60分番組として制作しました。さらに同作品は、NHKのハイビジョン番組で109分ものとしてリメイク放映、その後、何と映画劇場版として120分作品にもなりました。国分さんは、2009年にこのテレビ番組を「ヤマノミ」というタイトルで書籍化、2010年に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。翌11年には、同作品で大宅壮一(おおや そういち)ノンフィクション大賞を受賞しています。 彼は、番組制作のためアマゾンに1999年から2018年までの20年間に、15回ほど行っています。本作品を書くきっかけとなった2016年8月放送のNHKスペシャル「大アマゾン 最後のイゾラド(イソラドとは未接触の先住民のこと)」の制作に際しては、2014年から3回に分けて85日間滞在していたとのことです。本日紹介の「ノモレ」は、テレビ番組として制作された「大アマゾン 最後のイソラド」を書籍化したものですが、先にご紹介した「ヤマノミ」の姉妹作品として位置づけられています。
作品紹介です。今から百年以上も前のこと、スペイン人やポルトガル人が「黒い黄金」と呼ばれるゴムを求めて、南米ペルーのアマゾンにやってきました。文明人が開設したゴム農園では、先住民が奴隷として過酷な労働を強いられていました。異世界からの病原菌に対する抵抗力のない先住民は、スペイン人等からもたらされたもともと現地には存在しない感染菌により、多く人が命を落としていきました。その多くは先住民イネ族でした。ある日、イネ族の5人の男が農園主を殺し、奴隷小屋から仲間を開放してみんなで奥地へ逃げました。捕まれば殺される、彼らは故郷での再会を誓い合い、二手に分かれて逃げました。一方は、故郷にたどり着くことができました。他方は戻らずじまい。故郷に戻った者たちは世を去るとき、子や孫を集めて言いいます。「森で別れたノモレに会いたい、息子たちよ、ノモレを探してくれ」と。それから百年以上たった現代、ペルーの奥地で先住民イソラドが出現し、村々が襲われ、弓矢で村人が殺傷される事件が起きました。驚いたペルー政府は、犯人と目されるイソラドを探し接触することとします。政府からその責任者に任命されたのが同じイソラドであるイネ族の末裔、ロメウという青年でした。ロメウの任務は、川の対岸から奥地への監視活動をすることでした。果たして、イソラドは現れるのか。犯人として目されるイソラドはロメウの祖先が探すノモレの末裔なのか。…といった感じでノンフィクションは展開していきます。
現地は虫だらけ、光に誘われて大きなたくさんの蛾が群がります、コロッケくらいの大きさのゴキブリがいます。想像するだけで気色悪いことこの上ありませんが、実際にまだこんな原始世界が残っているんだというのか端的な感想でした。登場する先住民の知恵の進化のなさにもイラつきます。
国分さんによれば、1999年に初めてブラジルに行ったときは、そこから1時間も飛行機で飛べば、眼下は見渡す限り原生林だったそうです。それが今では、原生林は消え、道路ができ牧場や畑に変わってしまっているそうです。文明の波はどんどんアマゾン奥地へ進んでおり、もはや先住民が暮らす余地はなくなってきているのかもしれません。もはやアマゾンは緑の魔界ではなくなってきているのです。
なお、タイトルの「ノモレ」はペルーの先住民イネ族の言葉で「仲間」とか「友」という意味です。
本日、ご紹介したのは、国分拓著「ノモレ」新潮社から2018年6月22日発刊、278頁1728円でした(了)。

私の一冊について
福岡県弁護士会所属 弁護士 中山栄治が、日々の読書感想やゴルフ体験を綴ったコラムです。